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Spinning a Cocoon into a Ray of Light
-Minori Yamazaki's World- [Next:English]
Machiko Kusahara
Media Art Curator
Associate Professor of Media Art, Tokyo Institute of Polytechnics
光の繭を紡ぐ―ヤマザキミノリの世界
メディアアート評論・東京工芸大学芸術学部助教授
草原真知子
光がなければなにも見えない。
そもそも地球上の生態系を生じさせ、支えているのは光のエネ
ルギーに他ならない。創世紀が光の誕生に始まるのは神話という
以上に真実である。
美術史の中で光の表現は、宗教画における希望や敬虔さの表出
から印象派における主観的表現まで、その意味合いを変えつつ主
要なテーマとして続いてきた。
光を壮大なイメージ表現に直接結びつけたステンドグラスは、
いわば縮小され、ランプの光にかざされることによって庶民の楽
しみとしての幻灯へと変容した。それは外界に溢れる陽光を遮断
することによって得られた小さな自由であった。
スライドから映画へ、光学系から電子メディアへと形を変えつ
つ、我々はいわば部分的に光を制御する術を身につけたのであ
る。光による表現が西欧美術の追求し続けた夢であったことは、
CGの登場が欧米で「人間がついに手にした光の絵の具」と評さ
れたことからも察しられる。映像技術の最先端であるそのCG
が、「光がなければなにも見えない」という、暗闇を忘れた文明
人たる我々がつい見失いがち事実を明確に示してくれるのは面白
い。現実の光の反射や拡散をシュミレートするCGでは、仮想空
間の中で光源の設定を忘れると画面はただの闇になってしまうの
である。
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電子芸術の幕開け、60年代から70年代には光を媒体とする作品
が多くあらわれた。それらはネオン管、光線の照射、キネティッ
クアートと複合した動く光のスカルプチュア、アナログシンセサ
イザーによる映像のリアルタイム処理と投影、モニターを配置し
たアンビエントな空間といった形態を取った。レーザー光線やプ
レキシグラス(断面に光が集中する透明樹脂)といった素材はそ
れまでになくシャープな光の造形を、光ファイバーは光線の自由
な誘導を可能にした。
ウェン・イン・ツァイの繊細なサイバネティック作品やブルー
ス・ナウマンのつくりだす空間は、光が彫刻的なメディアになっ
たことを感じさせる。しかし、経済の高度成長につれ強烈なライ
ティングがライブコンサートやディスコの興奮を盛り上げ、空が
星ではなくネオンやレーザー光線で満たされた80年代、商業主義
はアートを物量で凌駕した。80年代半ば、アメリカから来たライ
ト・スカルプチュア・アーティストが新宿歌舞伎町の夜景に言葉
を失って立ち尽くしていた姿を思い出す。
コンテンポラリーアートの文脈の中で、光の持つメッセージ性
をこのような日常から遮断してアートとして構築するためには勢
い、ミニマルで幾何学的な表現によって光をそぎ落とすか、ある
いは現在われわれの周囲に溢れる光を批判的に投げ返すことにも
なる。ナム・ジュン・パイクやジェニー・ホルツァーや宮島達男
は、映像(あるいは光の文字)の過剰を捉え、そのメッセージを
すり替えて我々に突き返す。逢坂卓郎は眼に見えず降り注ぐ宇宙
線をかすかな光の点滅として可視化することで、われわれを取り
巻く世界に思いを至らせる。
光はメッセージであり、われわれはそれと対峙することを余儀な
くされる。
ヤマザキミノリの作品はそれらとは立場を異にする。削除では
なく、包摂、無機性ではなく有機性に基づいたアニミズム的宇宙
といってもいい。個別の作品というよりはCGも含め多様なメデ
ィアを駆使して紡ぎ出すアンビエントな場が広がり、たゆたう光
が空間を3次元的に満たす。個体発生が系統発生を繰り返すとい
う生物学の定理のように、先祖の記憶が胎児の記憶と混じり合
い、われわれは自分を包み込む柔らかい光と闇をどこかに持って
いるのではないか。そんなことを感じさせる様な暖かみのある、
光に包まれた空間である。
それはこのアーティストが空間演出デザインの分野でも活躍し
てきたことと無縁ではないだろう。デザインの本質が豊かで心地
よい時間の創出にあるとしたら、そしてアートの意味の一つがわ
れわれの見失ったものを気付かせることにあるとしたら、闇や星
空を失ったわれわれは、ヤマザキミノリのようなアーティストを
必要としている。ビル・ヴィオラやジェームス・タレルが創り出
す静謐な空間が従来にない注目を集めているように、エネルギー
濫費時代の狂騒が過ぎ去った今、われわれが求めているのは、闇
と光の接点にある不思議な懐かしさ、そこから静かに広がってい
く記憶ではないだろうか。
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